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武雄市の小学校で図書利用カード(含むTカード)が一斉作成されることの違和感

武雄市図書館は CCC を指定管理者とし、図書館の貸し出しカードを次の二種類から選べるようにした。

  1. 指定管理前からあった「図書利用カード」
  2. TSUTAYA の Tカードに貸し出し機能がついたもの(下記抜き書きで「ポイント付き」とされているもの)

今回、武雄市内の小学生に対しこれらのカードを学校経由で一斉作成させるべく教育委員会から保護者へ通知があったようだ。

写真抜き書き:

武雄市内の小学生 保護者各位
このたび、武雄市内自動の読書推進を目的として
武雄市図書館の利用カードの一斉作成をすることになりました。
◇作成にあたりご確認いただきたいこと
・平成25年4月1日の図書館リニューアル以後、すでにお子様が図書館カードを
 作成されている方はお申し込みの必要はありません。
・作成いただくカードは2種類のタイプからお選びいただけます。
 A. 図書利用カード B. 図書利用カード(ポイント付き)
 (それぞれのカードの絵)
  ※それぞれのタイプにより規約がございますので、ご確認の上、お選び下さい。
・2種類のタイプとも「登録申込書」と「保護者同意書」のご提出が必要となります。

写真では見切れているが、発行されたカードは担任から児童へ渡される模様。

「カードの一斉作成」「2種類のタイプからお選び頂けます」「ご確認の上、お選び下さい」とあるため、パッと見ではいずれかのカードを作らないといけないようにも読める。

これに対し別の方が武雄市教育委員会文化・学習課の担当係長へ電話で問い合わせたところ、この施策の根拠は「武雄市子ども読書活動推進計画」にあるという。

2 図書利用カードの作成
小学校新一年生や転入生など、図書館の図書利用カードを持たない児童生徒や先生を対象に学校を通じて希望をとり、図書利用カード作成をしています。自分のカードを持つことで、図書館を利用するきっかけとなり、本とふれあう環境がさらに広がります。
武雄市子ども読書活動推進計画

電話に出た担当者によるとこれは強制ではなく、かつ校長会でもその旨が周知されるという。

何が問題か

このことについて懸念が指摘されている。個人的には次の点が問題だと思う。

  • カード作成が任意であることが分かりづらい
  • 「図書利用カード(ポイント付き)」が Tカードであることが分かりづらい

貸し出し機能つき Tカードの懸念点は以前このブログでも触れた。

要するに「ポイント付き」のカードを作ると Tカード番号と図書館 ID が「紐付け」されるため、CCC が持つ会員情報の属性に「図書館の利用事実(本を借りたという事実)」が連携されてしまうのではないかと考えられる。

CCC へは書名ではなく「本を借りたという事実」のみが通知され、その結果として Tカードに対してポイントが付与されるとされているが、「図書館の自由に関する宣言」によればこの利用事実も「利用者の秘密」の一つであり、守られるべきものだ。

第3 図書館は利用者の秘密を守る
 読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。
 図書館は、読書記録以外の図書館の利用事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない。
 利用者の読書事実、利用事実は、図書館が業務上知り得た秘密であって、図書館活動に従事するすべての人びとは、この秘密を守らなければならない。
図書館の自由に関する宣言

ある本を借りて読んだという事実は他人に知られたくない場合がある。本の内容から関心を推測されることが不利益になることがある。図書館を利用した事実もまた同様に特定の関心を推測される可能性があり、図書館を利用しなかったという事実もまた同じである。だから読書の事実も利用の事実も等しくプライバシーであって、一律に保護されるべきものだと考える。

そのプライバシーに対してなされる「ポイントの付与」は一私企業である CCC の販売促進活動だ。公共機関である図書館はこれに肩入れすべきではない。利用事実をポイントへ換金する仕組みは「図書館の自由に関する宣言」を形骸化させる恐れもあり、公共の図書館として不適切だと思う。

武雄市子ども読書活動推進計画と「ツタバ図書館」の乖離

同計画は平成19年策定、一方武雄市図書館のリニューアルは同25年であり、計画は現状の図書館を想定していない。当然、学校での図書利用カード作成も Tカードについては考慮されていないはずである。にもかかわらず同計画を根拠とし、公立学校で一私企業のポイントカード作成が公然と行われ、かつその流通が支援される形となっている。公共機関として異様だ。

自分でリスクを負えない児童のパーソナルデータが、保護者の同意により収集・蓄積されることの懸念

児童は責任のある判断能力がない前提で、保護者がこれを監護する義務がある。Tカードについてもその利点とリスクについて保護者はよく検討しなければならないが、仮に Tカードの利用規約に保護者が同意した場合、その影響は児童の将来にも影響することに注意する必要がある。

というのもポイントカードの特性上、同意すると児童が将来成人してこれを明示的に削除申し立てない限り、パーソナルデータが収集蓄積され続けることになる。児童は現時点でこの可能性やリスクについて責任を負えないが、保護者の同意により結果としてその責任を将来にわたって負わされることになる。収集されるパーソナルデータの内容、共同利用される対象の範囲は将来的に増える可能性がある。これと引き換えで得られる「ポイント」とのバランスをどのように理解するか、保護者は慎重に検討する必要があるだろう。

個人的にこの同意は児童に対し不可逆な影響をもたらす可能性が高いと考えている。子が将来成人し自らの意思で同意するまでは、保護者はこういったデータの収集・蓄積から子を守るべきだろうと思う。

学校で Tカードを作ることの不気味さ

教育委員会は本件を「読書推進」のためとしてるが、本を読むだけなら学校の図書館でできる。学校の図書館にない本は相互貸借で借りられるはずで、これを推進するのが「武雄市子ども読書活動推進計画」だ。図書利用カードを学校で作成することも、公共図書館に閉じた一利用カードとしての位置付けだからこそだったのであり、Tカードになってからも同じことができると考えるのはあまりにもナイーブだ。学校の教室で Tカードが配られることに違和感はないのだろうか。Tカードの競合で働く親がいる可能性を考慮しないのだろうか。一般的な貸し出しカードにはない特殊なリスク・懸念点を持つカードを一斉作成させようとすることに抵抗のある保護者がいる可能性を検討しなかったのだろうか。

作らないこともできる、Tカードではない図書利用カードを作ることもできる、そういう回答が当然に予想されるが、もともとの通知が「一斉作成」だ。「なぜ作らないのか」という無用の問いを突きつけられることに対し、当然心理的な負担があるはずだ。ましてや教室でカードを配るのである。「みんなが持っている」のに「自分はもっていない」ことに児童は耐えられるだろうか。保護者はそれを児童にさせることができるだろうか。そう考えればこれは半強制的な施策といえるだろう。繰り返すがこれは公共機関として異様だと思う。