武雄市図書館のTカード番号で「本人が特定されない」のは本当か

keikuma さんのブログ *1 にもある通り、古賀教育部長は武雄市図書館がCCCへ利用者のTカード番号を渡したとしても「本人が特定をされない」と答弁し、よって「個人情報についてはしっかり守られる」と述べているが、本当だろうか。

6 図書館が取り扱う個人情報の類型と義務規定の適用
 図書館が取り扱う「利用者情報」は、生存する個人に関する情報であって特定の個人を識別できる場合には、個人情報保護法に基づく取扱いを行うことが義務づけられる。
 「利用情報」は、入退館記録や貸出記録など、その情報だけでは特定の個人を識別できない場合であっても、IDなど利用者に付された番号と照合することで特定の個人を識別できる場合は、当該記録も個人情報として取り扱わなければならない。なお、当該IDの付与者に関する情報を他の図書館へ照会しなければならないなど、図書館内部において「容易に」照合できない場合は個人情報とはならない。
新保史生『情報管理と法 ー情報の利用と保護のバランスー』勉誠出版株式会社, 2010年, P.61

武雄市図書館で本を借り、かつTポイントをもらうためには次の手続きが必要だ。

申し込み

  • 武雄市図書館利用に関する規約に同意する(図書館の規約)
  • Tカードでの武雄市図書館利用に関する規約に同意する(CCCの規約)
  • 図書館およびCCCへ個人情報を預ける

上記により図書館から「図書館ID」、CCCからは「Tカード番号」が付与される。
申請者に交付されるのはTカードであり、券面に記載されるのはTカード番号だ。
ここで図書館IDとTカード番号を「紐付け」る必要が生じるため、「ID紐付登録」を行う(CCC規約)。 ID紐付登録を行うと、申請者は「ID紐付会員」になる。

これで貸出が受けられるようになる。
本を選んで自動貸出機で貸出処理を行うと、内部的にはおそらく次のような手続きがなされるはずだ。

貸出処理

  • 自動貸出機はTカードからTカード番号を読み取る
  • 図書館のデータベースと照合し、図書館IDを得る
  • 図書館IDで貸出処理を行う

ポイント付与

  • 図書館システムはCCCのシステムへ接続し、Tカード番号、処理年月、処理時刻、付与ポイント数を渡す
  • CCCのシステムは受け取ったTカード番号の利用者に対し、指定されたポイントを付与する

これを絵にすると下のようになる。

貸出の流れ

f:id:dechnostick:20130613044439p:plain

ここで注目したいのは、ポイント付与対象の利用者は必ず「ID紐付会員」である点だ。これにより図書館IDとTカード番号は一対一で対応することになる。つまりTカード番号 T-1234 と図書館ID L-5678 が特定の個人に割り当てられたとして、どちらの番号からも当該個人を識別でき、かつどちらの番号からも、もう一方の番号を得られるということになる。

図書館は自身の業務を図書館IDで行うはずだから、Tカードの利用者についてはTカード番号を図書館IDへ変換する操作が必要になる。この変換で必要になる表は図書館のみが保持していなければならない。なぜならこれがCCCにあるとすると、CCCが図書館IDとの対応を知っているということになるからだ。

CCCは図書館から送られてきたTカード番号に対してポイントを付与するわけだが、そのTカード番号が「誰」なのかは、Tカード作成時に申請者から預かった情報から特定できる。 つまり武雄市図書館がCCCへ利用者のTカード番号を渡すと、CCCはその番号を元に個人を特定できるはずである。


*1 シリーズ武雄市TSUTAYA図書館(16) - 武雄市議会 平成25年3月定例会 石丸定議員一般質問
武雄市図書館利用に関する規約
Tカードでの武雄市図書館利用に関する規約