公共図書館の委託

最近は CCC とセットで言及される TRC こと図書館流通センターは、公共図書館からよく指定管理を受けていることでも知られている会社ではあるが、そもそもどういった組織なのか、ここでふりかえってみたい。

p.128
 公共図書館の委託は、1980年代になって京都市長野市でカウンター業務を委託しようという動きがあった時からとされることが多い。しかし、あまり意識されてこなかったが図書館での委託業務そのものは第二次大戦直後から始まっている。それも日本図書館協会が受託先になって、選書、収集、目録作成という、それこそ根幹にあたる部分の業務を代行してきている。戦後の混乱期であり、図書館業務が分からない職員が多かったこと、そして出版・流通鵜事情が悪かったため集品もままならないというやむをえない事情があったにしても、委託業務であることには変わりはない。そしてこの委託業務に関しては図書館界が育ててきたものであることを忘れてはいけない。

p.128-129
 1947(昭和22)年5月に発行された『図書館雑誌』に「カード斡旋配給」と「図書推薦事業」を始めたという報告が出ている(図書館雑誌[1947])。当時は紙が配給制であり、出版物がきちんと地方に届かない混乱の時代であったこと、そして図書整理のできる職員がいないといったことがあり、日本図書館協会に頼らざるを得ない事情もあったようで、その意味では地方の窮状を見かねて日本図書館協会が立ち上がったということであった。
 しかし、その後選定事業日本図書館協会の財政基盤を支える大きな柱になってくる。『図書館雑誌』第46巻第5号で「出来るだけ多くの図書館で選定図書の購入をするように努力する」(図書館雑誌[1952a:27])、あるいは1949(昭和24)年度の事業報告として「3 八千円文庫 年八千円供託することにより、小中学校別に推薦図書、その印刷カード、「読書相談」を自動的に配布する」とあり(図書館雑誌[1950:150])、さらに第46巻第7号では「選定図書直送の件」として、図書費を割いて選定図書を購入することを勧めている(図書館雑誌[1952b:53])。
田村俊作・小川俊彦 編『公共図書館の論点整理』図書館の現場(7), 勁草書房, 2008年

この事業を継ぐ形で誕生したのが TRC ということになる。

公立図書館の公共性

本(商品)を税金で共有してよいのは、それが公共の福祉だという共通認識があるからだろう。
その認識がなければ商品を税金で買い、勝手にシェアすることは端的に言って営業妨害だろう。
公共の福祉がそれに勝るという理解がなければ許されないことであるから、本というのは特殊な地位を占めている商品なのだと思う。

昭和25年当時の資料から公共性について、文部省社会教育局長の言葉をみてみる。

p.98-100
 6 公立図書館の公共性
 図書館は、その定義においても明らかなように、一般公衆の利用に供されることが目的であるから、公立図書館であると、私立図書館であるとを問わず、その公共性が重視されねばらなないことは勿論である。然し住民の税金によって設置運営される公立図書館においては、私立図書館における場合よりも一層その公共性が強調されるべきであり、文字通り住民全部の世論によって、住民全部のために活動しなければならないのである。従って図書館奉仕の理想も特に公立図書館において重視されてくるのである。
 公立図書館の公共性を考える上において注目すべき規定を二つ図書館法の中に指摘することができる。一つは公立図書館の無料公開の原則である。
 旧図書館令においては、
 第13条 公立図書館ニ於テハ閲覧料又ハ附帯施設ノ使用料ヲ徴収スルコトヲ得
という規定があって、公立図書館においても、入館料その他の使用料を徴収する例になっていた。然しこのことは、さきに昭和21年3月ジョージ・ロ・ストダード博士を団長とする米国教育使節団の報告書の中においても鋭く批判され、公立図書館は無料公開を原則とすべきで、公費によってすべて賄われなければならないとされたのである。公立図書館が真に住民全部のためのものであり、利用しようとする人に常に公開さるべきものであるためには、この報告書をまつまでもなく、無料公開にさるべきは当然である。図書館法においては、この原則をかかげて、
 第17条 公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない。
としたのである。
<略>
 第二は、図書館協議会の制度が、図書館法ではじめてとりあげられたことである。
 第14条 公立図書館に図書館協議会を置くことができる。
 2 図書館協議会は、図書館の運営に関し館長の諮問に応ずるとともに、図書館の行う図書館奉仕につき、館長に対して意見を述べる機関とする。
 公立図書館に図書館協議会の置かれる理由は、第14条第2項のその職務によっても明らかなように、住民の具体的な図書館に対する要望なり意見なりを、図書館奉仕を実施する責任者とも言うべき館長に対して反映せしめるために置かれるのである。わが国の図書館活動の歴史に置いてかかる機関が置かれることになったのは、まさにはじめてのことである。然し図書館協議会も真に置くべき必要のある図書館に置かれるべきで、画一的に小さな図書館にまで置くことを法律的に義務づけることは、かえって望ましくないことであろう。この点公民館に置かれる公民館運営審議会といささか趣を異にすると言える。然し構想としては、いずれも、住民の世論を尊重して館の運営なり活動なりをやってゆこうとするものである。
西崎恵『図書館法』社団法人 日本図書館協会, 1970年

武雄市図書館、開館当時の関係者の声

海老名、小牧、多賀城など武雄に続けとツタヤ図書館の流れがある。
ここで先例となった武雄市の関係者が当時どう考えていたのか、書籍から振り返りたい。 (杉原さんは館長、宮原さんは高層書架の設計者)

P.46
杉原豊秋
「CCCが運営に加わることには、私自身、懸念や不安もありました。民間企業というのは、基本的には利潤の追求がその存在意義ですから、市立図書館の "公共性" が、ないがしろにされてしまう部分が出てくるのではないかと」

「…もちろん年齢的には私自身もそうだから、"プレミアエイジ" をターゲットとする意味は良く分かるんですが、長く教員生活を送った性なのか、やはり若い人や子どものことがまず頭に浮かぶんですね。そうした年齢層を大切にした図書館運営を自分の手で続けていきたいと思ったわけです」

「…当然ですが、未来は子どもたちのものです。だから図書館の未来も子どもたちとともにある。私は館長になったとき、この図書館を未来に引き継ぐ責任を負ったと感じました。だからこの方針だけは守りたいのです」

P.50
宮原新
「書物というのは人にとってひとつの快楽。それを可視化するために、圧倒的なヴォリュームを備えた書庫というものをまず考えた」

P.52
エポカル武雄・フレンズ
「今回の図書館改革に関しては、それを聞いたときの不安は大きかったです。運営主体が変わることで、音訳や点訳といった活動を行う場が失われてしまうのではないかという懸念が先に立ちましたし」 そう3人は顔を見合わせる。
… 「公共性がなければいかに多くの蔵書を有していても、それは図書館ではなく書店になってしまいます。公共図書館とは、ただ本を貸し出す機能があればいいというものではなく、市民が集う場となる必要があると思いますし、そこからボランティア活動などの市民の運動が発生していくのだと思います。もちろん公共性という言葉の中身は人それぞれの捉え方によっても異なるでしょうし、時代によっても変わっていくものでしょう。ただ "公共" というのは行政が市民に押し付けるものでもなければ、市民が行政に任せきりにするものでもなく、行政と市民の対話を通して形作られていくものでしょう。新しい図書館には武雄市の公共性を体現する存在であってほしいと願っていますし、私たちもそれに協力していきたいと思っています」
株式会社 楽園計画 編『図書館が街を創る。「武雄市図書館」という挑戦 Challenge of The Takeo City Library』ネコ・パブリッシング, 2013