電子書籍が普及しないのは図書館のせいではなく、権利処理の問題だろう

話題の「電子書籍の仇敵は図書館」 *1 が大幅に「付記」されている。「バカ発見器」によって発見される側のバカとして、バカなりの考えをまとめたい。

筆者は電子書籍が普及しないのは図書館のせいだと言っている。

なぜなら図書館は:

  • 読みやすい紙の本をタダで貸し出している
  • 電子書籍より高コストの本をタダで貸し出しているのは経済的に不公正

だという。つまり電子書籍は紙の本より読みづらいのに、これが無料だったら電子書籍は普及しないよね、という話。でもそれは図書館の貸出が無料であることを否定する理由にはならないだろう。電子書籍の読み易さは図書館云々以前の話だ(ところで一部のマンガではスマホやケータイに特化した表現が生まれつつあり、紙とは違う「読書体験」を確立しつつある。電子書籍の読書体験が紙と比べて一律劣るとは言いがたい状況になってきている)。

読み易い紙の本をタダで貸している限り電子書籍は普及しないから、図書館は本来の姿に戻るべきだと論は続く。筆者の「そもそも論」は「図書館=書庫」のイメージが強いのだろう。アーカイブに値するものだけを蓄えろ、という話。
しかし著者は一方で、有料の情報をタダでばらまくなとも言っていて、一般庶民が購入を躊躇する高級単行本のみを所蔵すべきとの主張と整合しない。著者の立場なら、高級単行本もまたコストがかけられた商品であるはずだから、皆がお金を出して買うべきとなるはずだ。

また再販制度について筆者はこうも言っている。

文化普及を名目に出版側には再販制度によってむりやり全国一律の定価維持を強制しておきながら、血税で建てた図書館では地元民の御機嫌取りに無料でそれをばらまき、きちんと本を自前で購入する善意善良な読者にはその定価のみならず消費税まで追加請求する、ということが、文化的に、また、政治的、経済的に「公正」か。こんな正直者がバカを見るようなしくみは、正規の本の読者を愚弄していないか。

定価で買っている読者がバカを見ている、ということだろう。再販制度って出版社側が強制させられているという意識なの?と思って見てみると、日本書籍出版協会にはこうあった。

出版物再販制度は全国の読者に多種多様な出版物を同一価格で提供していくために不可欠なものであり、また文字・活字文化の振興上、書籍・雑誌は基本的な文化資産であり、自国の文化水準を維持するために、重要な役割を果たしています。
再販制度 | 一般社団法人 日本書籍出版協会

Q&Aもあり、見てみると次のようにある。

Q.なぜ出版物に再販制度が必要なのでしょうか?
A.出版物には一般商品と著しく異なる特性があります。
…書店での立ち読み 風景に見られるように、出版物は読者が手に取って見てから購入されることが多いのはご存知のとおりです。
再販制度によって価格が安定しているからこそこうしたことが可能になるのです。

Q.再販制度がなくなればどうなるのでしょうか?
A.読者の皆さんが不利益を受けることになります。
再販制度がなくなって安売り競争が行なわれるようになると、書店が仕入れる出版物は売行き予測の立てやすいベストセラーものに偏りがちになり、みせかけの価格が高くなります。
また、専門書や個性的な出版物を仕入れることのできる書店が今よりも大幅に減少します。
同上

「むりやり全国一律の定価維持を強制」されているようには見えない。

また電子書籍の図書館での扱いについて、筆者は次のように述べている。

しかし、いまの日本のような、遅れた著作権法の下で、図書館が電子書籍を「購入」し、これを不特定多数に貸与したとき、どうなるのか。

電子書籍が普及しないのは、貸与等権利関係の処理が進んでいないからではないのか?


*1 電子書籍の仇敵は図書館