「附帯施設論争」について

最近、「図書館は何をするところか」について、「社会教育」が再発見されたりしている。
本を貸すだけなのか、コーヒーも出すのか、有償レンタルもするのか、有名人のトークショーも開くのか、つまり社会教育施設としての図書館は何であって、何でないのか(「社会教育施設」に限定されない、という議論もある)。
しかしそういったことは以前にも議論されていたことで、その中には「附帯施設論争」と呼ばれるものがあったようだ。

附帯施設論争
附帯施設論争は、改正図書館令(1933年)の第1条第2項「図書館ハ社会教育ニ関シ附帯施設ヲ為スコトヲ得」の解釈を巡った議論。ここでいう「施設」は営造物ではなく指導等の行為を指す。

この改正前に開催された第25回全国図書館大会(1931年)で "図書館ノ附帯事業トシテ適当ナル社会教育施設如何" という文部大臣諮問事項が出された。文部省は図書館はただ図書を集めて読ませるだけでなく、住民の要望があれば体育館でも何でも借りて柔道でも剣道でも指導すべきであるとしたのに対し、石川県立図書館中田邦造が図書館は図書館の本質的事業のみに注力すべきであると主張した。

文部省は学校を通じて子どもを教化する一方、社会人に対する思想善導が不十分だと考えており、図書館がこれを強化するための中心を担うべきだと考えていた。

本件についていえば文部省の思惑に図書館は乗らなかった格好だが、とはいえ既に第18回大会(1924年)において "国民思想善導ニ関シ図書館ノ採ルベキ最良方策如何" との文部大臣諮問に対し "出版物ノ検閲取締" を、"内務当局ト御協力ノ上徹底的取締法ヲ講ゼラレ度而シテ是会員多数ノ希望ニ有之茲ニ答申案ヲ提出" と答申している。

第2回大会(1907年)で国庫補助を仰ぐ件をめぐって、図書館の自主性を脅かすという反対意見が出た頃と比較しても、図書館界に自由な気風が失われつつあった。

参考:

蛇足だが関西文庫協会が発刊した『東壁』(1901年)には附録として「増訂好色本目録」が6頁添えられていたそうで、弾圧されてきた好色本の解題付き目録とのこと。「当時の知識層、特に関西の知識層ならびに図書館界の自由な気風の一端を示すもの」として触れられている(1))。