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「市民価値を追求する武雄市の挑戦」を読んで

新図書館構想に関する市長の発言には、動画や文章で何度となく触れてきた。
今回発表された文章は「新装開店」後の公式発表としてボリュームがあり、いままでのおさらいも兼ねた内容となっている。
そこで今まで感じてきたことも踏まえ、ここに文章を引きながら注釈的に整理しようと思う。

市民価値を追求する武雄市の挑戦 佐賀県武雄市長・樋渡啓祐を読んで

「まるで図書館の中に街ができたみたいだ」。リニューアル後の図書館に来た市民がこうつぶやいた。

今年の4月に『図書館が街を創る。「武雄市図書館」という挑戦』という本が出ている。 その市民は同書を読んでいたか、ツタヤの平台に積まれた同書のタイトルを目にしていたか、あるいは同書が武雄市民の発言を予言していたかのいずれかだろう。

以前よりは休館日が減り、開館時間も若干延長されるなど、少しはサービスの改善が見られたものの、例えば年間の休館日数を34日に縮めるのが限界だった。

以前見たように、 ここ数年、開館日数を増やした割には貸出冊数と利用者数が増えていない。「サービスの改善」が貸出冊数と利用者数の増加として現れるとして、休館日数を減らすのは、現状の図書館をベースに考える限り効果的ではないだろう。つまり休館日数が減らせないから、前の図書館は良くなかったという批判は当たらないだろうと思う。

さらに言えば図書館は改善の途上であって、市長自ら新しい施策を打ち出したばかりだった。その効果の確認を待たず、新図書館構想は発表された形だ。

百の議論より一の実行。私はすぐに出張を手配し、代官山へ向かった。旧山手通り沿いの舗道を歩いていると、テレビで見た顔が目に入った。増田社長である。私は思い切って自らの思いをストレートに伝えた。「うちの街の図書館の運営をお願いできませんか」。増田社長からの返答はいたって明快なものであった。「ぜひやらせてください」。

これについては「市長提案事項説明要旨」に詳細が載っている。少し長いが該当部分を抜き出す。

今TRC(株式会社図書館流通センター)とべったりの関係になってますけれども、これが本当にいいのかどうかということも含めて、私はいろんなブログに書きましたけれども、地元の本屋さんであるとか、あるいは、これは、相手がある話ですので、名前は申し上げませんけれども、365日で運用してくれないかどうかということを打診した時に、どこもできないという話をいただきました。
 その時に私は去年末のカンブリア宮殿を見て、ここだったらお任せできるかもしれないな、ということをワン・オブ・ゼムで思いました。
 しかし、私は何のつてもありません。
 もともと、私は人脈はありません。
 その時に、前の古賀滋副市長の息子さんが、今、デジタルハリウッドの社長兼CEOでありますけれども、古賀鉄也氏、私の同級生であります。
 日経の交友抄にも書きましたけれども。
 その彼は、TSUTAYAでM&Aの経験をする部長でありました、前職が。
 この彼に話をしたところ、わかったと。
 話しの中身はともかくとして、CCCの副社長につなげるという話をしてくださいました。
 そして、お互い日程調整をして1月のしかるべき時点で、私は、出張のついでに、そこのCCCの運営する代官山のTSUTAYA書店、指定をされたTSUTAYA書店に伺いました。
 この時に、これもたまたまなんですけれども、ちょうどテレビ取材を受けておられた、CCCの増田社長とたまたま会うことができました。
 その際にこれは路上で、これは、テレビカメラに映ってますので、いつか放映されると思いますが、その中で、私は、CCCに、ぜひ図書館の運営を委ねたいんですと。
 それも、別にCCCを私が好きだからというものではなくて、365日しかもしっかりとした市民サービスを提供できるところを今探しています。
 もちろんこれは、議会のご議決がありますと。
 私の一存では決められませんけれども、議会の議決を賜った後は、ぜひ契約を進めていきたいと、いうことを申し上げたところ、増田社長が開口一番、私も図書館を行いたいと思ってたと、私も図書館運営ということに非常に興味を持っていたということをおっしゃって頂きました。
 そこに同席していた、CCCの中西副社長もそこにおられましたけれども、そのトップの一声で後々、CCCとコミュニケーションを取ることになりました。
 一月以降、私がトップレベルで、あと私どもの教育委員会とつながる部を中心としてプロジェクトチームを作って、事務方どうしの交渉、あるいは私、トップとの交渉を含めて、何度も何度も交渉を重ねました。
 その結果、会見をしたのが5月4日であります。  なにも、誤解なきよう申し上げますと、私は別にCCCが好きでやっているわけじゃありません。
 あくまでも市民価値の向上として、どこと組むのか、と言うことを前提にした場合にして、繰り返しになりますけれども、他指定管理者をされているいろんな事業者であるとか、他の事業者であるとか、いったところが、できないから私はCCCにお願いをしようということを思った次第であります。
市長提案事項説明要旨 | 平成24年6月定例会 | 武雄市議会 | 市政情報 | 佐賀県武雄市

まとめるとこういう流れになる。

  1. カンブリア宮殿を見て、CCCがいいなと思った
  2. 同級生(前職がTSUTAYA)に話をしたところ副社長につないでもらえることになった
  3. 副社長に会うために代官山蔦屋へ行ったら社長が(たまたま)いた
  4. 社長に「ぜひ図書館の運営を委ねたいんです」とお願いした
  5. 社長、「私も図書館を行いたいと思ってた」とお返事

この間、武雄市図書館に対する様々な不安や懸念の声が聞かれたのも事実である。例えば、Tカード導入で個人情報が流出するのではないかという懸念。これについては、従来の図書利用カードとTカードの選択制とし、市とCCCとの協定書や規約の中で、個人情報の利用制限などをしっかりと規定した。

不安や懸念の声が聞かれたのは事実だが、どちらかというと「個人情報が流出するのではないかという懸念」ではなく、情報の使われ方だろう。つまり預けた個人情報が当人の理解を超えた範囲で共有、分析、利用されることについての懸念だ。これについて個人情報保護審議会の答申は、同意があれば提供してよいとしか言っていない。

しかし利用者と事業者とで同意の内容に齟齬がないよう、かつ利用者は同意によって生じる事態について事前によく理解することが大切なはずだ。そのためには現状示されている規約(図書館CCC)等をよく読み理解する必要があるはずだが、その時間がどの程度確保されているのかは分からない。

Tポイントが利益誘導に繋がるとの指摘は、書協によるもの。

ちなみにTポイントとは別の質問も書協から受けており、これに対し市長は次のように回答している。

1.指定管理事業者であるCCCが書店を併営する件について
 公共施設である図書館のスペースをテナントとして書店を運営することに関しては、新図書館構想を実現するために必要な要件であり、「実現する9つの市民価値」を十分に理解したCCCが運営することによって初めて実現するものであります。
 販売エリアは、公立図書館の扱いとは完全に区別され、公的施設を使用するにあたっての条件を付した上で許可をするもので、地方自治法第238条の4第7項及び武雄市行政財産使用料条例に基づいて許可したものです。
社団法人日本書籍出版協会への回答 : 武雄市長物語

このあとで市民価値がひとつ減ったことは以前述べた通り。
さらに「武雄市行政財産使用料条例に基づいて許可」した内容と根拠について@keikumaさんが開示請求したところ、それらが分かるような文書が得られなかったことが報告されている)。
また「販売エリアは、公立図書館の扱いとは完全に区別され」ると回答しつつも、今回の記事において市長は「今こそ、公と私が融けていくべき時代である。」とも述べている。

「指定管理者は公募すべきだったのではという意見」は日本図書館協会によるもの。

私が足しげく図書館に通うのも、市民目線で自分が不便だと感じることの違和感を大事にしているからにほかならない。私は、市民価値の向上を武雄市図書館で創出し、これを他の分野にもどんどん広げていきたいと考えている。

これについて『図書館が街を創る』に次のような記述がある。

「市長はもとから本好きですから、図書館も利用したい。でも執務を終える時間には図書館は閉館時間が過ぎて、もう閉まっているわけです。それで、開館時間をもっと延ばすことはできないのかという話になった」
 これは、プロジェクトの市側の担当者である井上裕次の証言。
株式会社 楽園計画 編『図書館が街を創る。「武雄市図書館」という挑戦 Challenge of The Takeo City Library』ネコ・パブリッシング, 2013, P.18

確かに「自分が不便だと感じることの違和感を大事にしている」。そして次のように続く。

 こうした起点に関して外野から "ワンマン市長の独断" という批判が投げかけられもしたが、市長側からすれば、この声はまったくの的外れなものに響いたはずだ。何ら公的な意図も打算も絡まない、完全に私的な皮膚感覚だからこそ、それは一般的な市民の多くが抱く感想だと考えられるからだ。逆説的だが、プライベートを突き詰めた先にこそ、パブリックの世界は広がっている。公とは私の集合体であるのだから……。
株式会社 楽園計画 編『図書館が街を創る。「武雄市図書館」という挑戦 Challenge of The Takeo City Library』ネコ・パブリッシング, 2013, P.18

市長の言う「公私一体」の説明ともとれるだろう。
「公的な意図も打算も絡まない」「私的な皮膚感覚」であることが強調(「何ら」「完全に」)されてる。

今回、図書館の指定管理をCCCにお願いしたが、これにより、以前と比べて開館時間を拡大しながらも運営経費は10%以上削減することができた。

運営経費というのは「図書館費」と違うのだろうか。図書館費が削減されていないことは以前述べた通り

3年前に実現した市民病院の民営化を例にあげると、これまで地方の病院は公が担うべきとされていたことに対し、市民病院のトップが市長であることが果たして最も効果的なのか、という素朴な疑問が改革の端緒であった。

「改革の端緒」について、市長の本にこう書いてある。

 それ(筆注:市民病院の赤字問題)を僕に処理せよと企画部長は迫ってきた。市民病院が問題になっていることなど、まったく知らなかった僕にである。まさに青天の霹靂、病院問題など市長選の争点にもいっさいなかったのだ。 (P.104)

「じゃあ、どうしたらいいんですか。確かに状況はよくないけれど、まだ一般会計から赤字補填をするところまで行っていないのだから、そのうちなんとかなるんじゃありませんか」
「あんた、バカじゃなかね」
「バカはないでしょう、バカは。そもそも市民病院の責任者は誰なんですか」
「あんたでしょうが」
「僕?ほんとうに?」
「ほかに誰がおるとですか。赤字補填してないから大丈夫というけど、補填しなければならないようになったら、もう手遅れじゃないか。そうなる前に手をつけないと」
 市民病院問題はこれ以降ずっと、僕が背負いつづける重い十字架となった。市民病院が破綻したら、ドミノ倒しで市の財政もがたがたに崩れてしまい、何の事業もできなくなる。(P.106-107)
樋渡啓祐『首長パンチ --最年少市長GABBA奮戦記--』講談社, 2010

要するに市長は病院経営の素人で、そんな人間が病院のトップである限り赤字は解消できないから民営化したほうがよいとなった。民営化に手を挙げた法人との会話にも興味深い記述がある。曰く当初武雄の人口と病床から経営が成り立つビジネスモデルが考えられないということだったが、交通のよいところにゆめタウンがあり、ここのレジを1日3万5000人が通ると知って「ビジネスは十分成立するだろう」となったとのこと。

「だから、病院にも同じぐらい来る人がいるということですか」
「そのとおり。商圏人口を考えれば、ビジネスは十分成立するだろう。空から武雄市を見たことあるかね。稲富さんからは鳥の目で見てくれと言われたんだけどね」
「いや。そこまでしたことはないですね」
「一度見てみるといい。武雄市をふくむ杵藤広域圏は3市4町、人口は16万人を超える。これだけの住人を我々はターゲットと考えているんだよ」
樋渡啓祐『首長パンチ --最年少市長GABBA奮戦記--』講談社, 2010, P.232

ゆめタウン」は「佐賀県最大級」(前掲)の規模であり、「商圏調査をきっちりやって、見込みのあるところにしか出店しない」(前掲)そうだ。

ゆめタウン武雄市図書館の隣にある。

ツタヤ・スタバもきっと「見込みのあるところにしか出店しない」だろう。

武雄市では、庁舎の改築をはじめ、今後も様々なテーマに対して、サービスを超えるサービスを提供していく。

病院民営化、図書館民間委託、続いて庁舎の改築。
市長は別の書で次のように述べている。

ハコモノを造る力強さは僕にはない。力弱く、今そこにあるものを活用するのみだ。
樋渡啓祐『「力強い」地方作りのための、あえて「力弱い」戦略論』ベネッセコーポレーション, 2008, P.84

「活用」の発想方法については「99%マネ論 × 組み合わせ論でいけ」(前掲)として、今までにどのようなことをやってきたか記されている。

これら市長の行ってきたこと、その方法論を見ていくことで、新図書館構想がどのような文脈なのかよりよく理解できるようになるだろうし、その次にあるものとされるものも、延長線を引くことで見えてくるかもしれない。